64 公益社団法人 岐阜県歯科医師会 岐阜県学校歯科保健研究大会レポート

特別講演特別講演

特別講演

「心身の健康の窓口としての口腔」

岐阜大学教育学部 教授 伊藤宗親

数年前の冬に、秋田県のとあるクマ牧場で冬眠中の月輪熊を観察する機会に恵まれました。彼らはずっと眠っているわけではなくたまには起きてものを食べるのですが、飼育員さん曰く、この時期、最も気を遣っているのは虫歯であると。虫歯になってしまったら死んでしまうのだという話を伺い、とても印象深くそれが記憶に残っています。

さて、学校歯科保健という領域になじみのない私-臨床心理学が専門-に、どうしてと思ったのですが、次に思いついたのが上記のエピソードです。そこから連想を広げてみると、普段はあまり自覚していませんでしたが意外と接点が見えてくるもので、日ごろ内科や精神科で心理療法やカウンセリングをしている中で、食べることや歯のこと、噛むことに関する話題を扱うこともあり、今回のテーマをあらためて心理学の視点から考えてみるのもよいのではないか、と思い立った次第です。

今回取り上げたいと思ったことを先にまとめてしまうと、広く口腔領域というのは、消化器官の入り口ですが、心身の健康の窓口でもあるということです。私たちは、直接観察できない事柄を観察可能な場(部位)から推測しますが、それがこの領域にも当てはまり得る、そして、そこから異状/異常を早めに察知できれば、健康の維持に役立つということです。東洋医学では、西洋医学にない舌診を行いますが、それは口腔が重要であるとの認識があってのアプローチです。

自身の日頃の実践を思い返してみると、たとえば、来談者の方の中でうまくストレスを扱えていない方、あるいは心身の不調を訴える方の何割かは顎関節症を患っておられるといった印象があります。このことは何を意味しているのか、口腔も、目ほどには語り得ないなにかを語り得るのではないか、観察可能な場からその奥にある観察できない事柄を理解しようと試みることも重要ではないか。そういったトピックについて、事例を交えて考えてみたいと思っています。

学校歯科保健では、まずもって虫歯予防の重要性を健康と結びつけて扱いますが、それとは異なる視点から、特に(臨床)心理学の視点から検討することで、みなさまの日頃の実践のヒントに多少なりとも資することができれば幸いです。

講師略歴

筑波大学大学院を経て、1997年(平成9年)より筑波大学心理学系助手。
1999年(平成11年)より、岐阜大学教育学部助教授、総合情報メディアセンター准教授を経て現職。
現在、日本ロールシャッハ学会常任理事(国際交流)日本心理学中部地区代議員。
専門は、臨床心理学。